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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)2571号 判決 1986年7月15日

原告

片岡昇

被告

洛陽交通株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金九〇万円及び内金八〇万円に対する昭和六〇年一月一〇日から、内金一〇万円に対する本判決言渡の日から、いずれも支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを八分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金七七〇万円及び内金七〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日から、内金七〇万円に対する本判決言渡の日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五六年八月五日午後四時二〇分頃

(二) 発生場所 京都市上京区今出川通小川東入道路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(京五五う四〇二四号、以下「被告車」という。)

運転者 訴外石井義治(以下「訴外石井」という。)

保有者 被告

(四) 被害者(車両) 普通乗用自動車(京五六ほ八三六二号、以下「原告車」という。)運転の原告

(五) 事故の態様

原告車が、今出川通を西進して小川通りとの交差点にさしかかつた際、赤信号で一時停止していたところ、後続の被告車が原告車の後部に追突した。

2  原告の受傷と治療の経過

原告は、前記交通事故(以下「本件事故」という。)の衝撃により、頸椎捻挫等の傷害を受け、昭和五六年八月六日から同五七年七月三一日まで京都市上京区内の相馬病院に、同年八月九日から同五九年九月三〇日まで京都市左京区内の立石医院に、それぞれ通院して治療を受けた。そして、同年九月三〇日症状固定となつたが、現在も頸部鈍痛に悩まされ、ときに右症状が増悪する等の後遺障害が残存しているため、完全な社会復帰が制限されている。

3  被告の責任

被告は、本件事故当時、被告車の保有者であり、かつタクシー運転手として被告車運転の業務に従事していた訴外石井の雇主であつたから、自賠法三条または民法七一五条にもとづき、いずれにしても原告に対して、原告が本件事故によつて受けた後記損害につき、賠償責任を負つている。

4  原告の損害

(一) 休業損害

原告は、本件事故発生当時、有限会社あづま不動産(京都市北区大将軍東鷹司町一五一所在、代表者東弘之)に営業員として勤務し、事故前三ケ月の平均給与は日額七六〇九円であつたが、本件事故による受傷のため、昭和五六年八月五日から同五九年九月三〇日まで合計一一五三日間にわたつて休業を余儀なくされた。よつて、金八七七万三一七七円の休業損害を蒙つた。

(二) 損害填補

原告は、本件事故による損害の填補として、自賠責保険から休業補償として金九九万二七〇円、労災保険から昭和五七年二月二四日より同五九年九月三〇日までの休業補償として金四三三万六七五〇円の合計金五三二万七〇二〇円の給付を受けた。

(三) 後遺障害による将来の逸失利益

原告の本件事故による後遺障害は自賠法施行令別表の後遺障害等級一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当し、労働能力は従来のそれの二〇パーセント以上の制限が少なくとも五年以上継続するとみられるから、将来得べかりし利益の喪失は金二四二万円を下らない。

(四) 慰藉料

原告の前記通院加療、休業、後遺障害による精神的肉体的苦痛は甚大であるところ、これを慰藉するための慰藉料は少なくとも金三八〇万円を下らない。

(五) 弁護士費用

原告は、本訴の提起並びに追行を弁護士に委任し、弁護士報酬として本訴請求額の一割相当額を支払う旨約した。

5  以上のとおり、右請求原因4(一)ないし(四)の損害額の合計は金九六六万六一五七万円を下らないが、本訴においては、内金七〇〇万円に弁護士費用七〇万円を加えた金七七〇万円を請求することとする。よつて、原告は被告に対し、右金七七〇万円及び内金七〇〇万円については本件訴状送達の日の翌日から、弁護士費用としての内金七〇万円については本判決言渡の日から、それぞれ支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

衝突箇所は、正確には、被告車の右側フエンダー前角部から右側面にかけての部分(右側角)が、原告車の後部バンパー左側角に当つたもので、衝突というよりも接触というのが相応しい状況であつた。

2  請求原因2のうち、原告が主張のとおり病院で治療を受けたことは認めるが、原告の受傷の点は否認し、その余の事実は不知。

被告車は、左側歩道上の客を拾うため減速していたうえ、被告車の右前側角部が原告車の後部バンパー左端をすつた程度であつたし、同接触部位が衝撃吸収性を有していたから、原告の身体には殆ど衝撃がなかつた。このことは、物損の賠償額が金一万八〇〇〇円にとどまつたことによつても裏付けられる。したがつて、原告が頸椎捻挫の傷害を負うことはありえない。それにもかかわらず、原告が病院で治療を受けているのは、本件事故と無関係な傷病についてとしか考えられない。

なお、仮に原告が本件事故により受傷したとしても、昭和五六年一一月一八日、相馬病院での治療をやめた段階で回復した。その後に、同じ症状が発現したとすれば、それは別の原因によるものである。

3  請求原因3のうち、被告が、本件事故当時、被告車の保有者であり、かつタクシー運転手として被告車運転の業務に従事していた訴外石井の雇主であつた事実は認めるが、主張は争う。

4  請求原因4(一)の事実のうち、原告が本件事故当時前記あづま不動産の営業員として勤務していたことは認めるが、その余は不知。

5  請求原因4(二)の事実は認める。

6  請求原因4(三)、(四)の事実は、いずれも否認し、主張は争う。

仮に、慰藉料を支払うべき事由が存したとすれば、原告は、労災保険から休業特別支給金一六〇万九二円、障害補償一時金一二九万三八三四円、障害特別支給二〇万円、障害特別一時金一三万九七七二円を受領しているから、これらの事実が慰藉料算定上考慮されるべきである。

7  請求原因4(五)は不知。

8  請求原因5は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  事故の発生

昭和五六年八月五日午後四時二〇分頃、京都市上京区今出川通小川東入道路上の交差点で信号待ちをしていた原告車の後部に被告車が追突したことについては、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない乙第二、第三号証、証人米田康男の証言によつて成立を認めうる乙第五ないし第七号証、証人石井義治(後記措信しない部分を除く)、同米田康男の各証言、及び原告本人尋問の結果を総合すれば、訴外石井は、被告車を時速約二五キロメートルで運転中、前記交差点手前約一五メートルで信号待ちしていた原告車を同車の手前約五メートルに至つて初めて発見し、制動をかけたが間に合わず、原告車の後部左側角に被告車の前部右側角を追突させ、よつて、原告車の後部バンパーを凹損すると共に、被告車の前部右側角のフエンダーリム、クリアランスランプのレンズ並びにマーカーレンズをそれぞれ破損したことが認められ、この認定に反する証人石井義治の証言部分は採用できず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

二  傷害

1  医師相馬秀臣に対する調査嘱託の結果並びに証人相馬秀臣の証言及び原告本人尋問の結果によると、原告は、

(一)  本件事故の翌日である昭和五六年八月六日、頸項部の違和感を訴え、京都市上京区内の相馬病院で医師相馬秀臣の診察を受けたこと、

(二)  右診察の際、頸椎のレントゲン検査では全く異常が見られなかつたが、両手握力の低下並びに頸頂部の筋肉のこりが認められたため、同医師により頸椎捻挫と診断されたこと、

(三)  右頸椎捻挫のため、昭和五六年八月六日から同年一一月一八日まで通院して一旦中断した後、首の具合が悪いといつて同五七年二月二四日から再び通院を始め、同年七月三一日まで、通じて一一四日間理学療法及び内服薬投与の治療を受けたこと、

(四)  右の間のことであるが、治療により前記筋肉のこりは昭和五七年四月頃には見られなくなり、同年七月八日には、症状固定に達したと考えた同医師から就業を勧告されたこと、その後も、実日数五日間同病院に通院したが、同年七月三一日を最後に自ら通院を中止したこと、なお、同医師は、この段階で普通に就労及び生活ができる状態にまで回復していると判断していたこと、

以上の事実がそれぞれ認められ、この認定を動かすに足る証拠はない。

そこで、これらの事実にさきに認定した事実を総合すれば、原告は、本件事故により、頸椎捻挫の傷害を負つたが、通院加療により昭和五七年七月八日には症状固定に達したことを推認できる。

2  医師立石弘に対する調査嘱託の結果並びに原告本人尋問の結果によると、原告は相馬病院への通院中止後も、同年八月九日、頸部、後頭部、右肩胛部から右上腕部にかけての鈍的自発痛を主訴として京都市左京区内の立石医院で診察を受け、頸腕症候群と診断され、同日から同五九年九月三〇日までのうち実日数二六六日間同医院に通院したこと、しかし、同医院での診察では、前記鈍的自発痛や局部の圧痛といつた主訴のほかは、全く他覚的所見が見られなかつたばかりか、両手の握力はほぼ正常に回復していたこと、同医院における約二年間にわたる薬物療法、理学療法によつて愁訴としての鈍的自発痛の範囲が漸次頸部、右肩胛部に限られて来たものの、痛みの性状は殆ど不変のまま推移していたことがそれぞれ認められ、この認定を動かすに足る証拠はない。

さきの認定事実と右認定事実とを総合して考察すると、立石医院での診断は原告の過大な愁訴に影響されたものではないかとの疑いが強く、昭和五九年九月三〇日をもつて症状固定とする原告主張は採用できない。

3  しかして、さきに認定した各事実によると、原告には前記症状固定後も本件事故の後遺症として、局部の神経症状が残存したことが推認され、その程度は自賠法施行令別表の後遺障害等級一四級一〇号に該当すると認められる。もつとも、成立に争いのない甲第三号証によると、原告は京都上労働基準監督署から一二級一二号の認定を受けたことが認められるが、さきに認定した各事実によれば右等級認定も、原告の過大な愁訴に影響された結果と解して妨げない。

三  責任

被告が本件事故当時、被告車について自賠法二条三項にいう保有者であつたことは当時者間に争いがないから、少なくとも被告は同法三条に基づき、本件事故によつて生じた原告の人的損害を賠償する責任がある。

四  損害

1  休業損害 金二五六万四二三三円

さきに認定した各事実によれば、原告は本件事故により、事故の翌日である昭和五六年八月六日から症状固定となつた五七年七月八日までの合計三三七日間にわたつて休業を余儀なくされたと認めるのが相当であるところ、原告が本件事故当時前記あずま不動産の営業員として勤務していたことについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の一、二、同第二号証に、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件事故当時の原告の収入は日額金七六〇九円をもつて相当と認められるから、右日額に休業日数を乗ずると、休業損害は金二五六万四二三三円となる。

2  逸失利益 金一三万二二四〇円

さきに認定した原告の後遺症による労働能力喪失率は五パーセント、喪失期間は少なくとも一年とみるのが相当であるところ、前記日額七六〇九円を基礎数値として一年に対応するホフマン係数〇・九五二三を用いて逸失利益の現価を求めると、金一三万二二四〇円(円未満切捨)となる。

3  慰藉料 金八〇万円

さきに認定した事故の状況、治療経過、逸失利益その他諸般の事情を考慮し、原告が蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料額は、金八〇万円をもつて相当と認める。

4  まとめ

以上損害合計額は金三四九万六四七三円であるところ、慰藉料を除く損害金二六九万六四七三円につき、原告の自認する填補額を控除すると、残損害額は慰藉料分八〇万円にとどまることになる。

5  弁護士費用 金一〇万円

原告が本訴の提起追行を弁護士に委任していることは明らかであるところ、それに要した費用のうち、金一〇万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

五  結論

以上の次第であるから、被告は原告に対し、金九〇万円及び弁護士費用分を除く内金八〇万円に対する履行期到来後の本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和六〇年一月一〇日から、内金一〇万円に対する本判決言渡の日から、いずれも支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負つているというべく、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。

よつて、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田眞)

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